遠野で美味しいりんごが実るまで 第一話「霜の被害」
岩手県は青森、長野につぐりんごの産地。
遠野市内にも数々のりんご畑が見られ、例年秋になるとたくさんの種類のりんごが産地直売所に並ぶ。
遠野市は、一年を通して昼夜の寒暖差が大きい気候が特徴だが、これはりんご栽培に非常に適している。昼間に成長したりんごが、夜の寒さで実が引き締まり糖度が高くなりやすい。
松陽園(しょうようえん)は、遠野で三代続くりんご農園。三代目の多田貴之(ただたかゆき)さんは、遠野のりんご農家のホープだ。貴之さんが育てたりんごは、これまでに「りんご王者決定戦」で2度準優勝に輝くなど、その美味しさが評価されている。
遠野市内で3.6ha、約1,200本のりんごを栽培する松陽園。
この記事は2023年のりんご栽培の様子を春から収穫の秋までリポートする第一弾である。
例年より早い桜の開花
2023年は、全国的に桜の開花が早く話題になった。遠野でも、例年より10日ほど早く桜が満開を迎えた。
3月に取材の打ち合わせをしていた時にこんな心配をしていた。
その予想が的中することになる。
遠野市は、岩手県内でも特別に寒い地域である。4月末に雪が降ることも珍しくない。りんごが早い時期に花を咲かせてしまうと、寒害を受ける可能性が高くなるのだ。りんごは生育が進むにつれ、低温への耐性が落ちてしまう。
特に怖いのが、霜で花が焼けてしまうことだった。
2023年4月末。例年より早くりんごの花が咲き誇った頃。
遠野は最低気温-5℃を記録した。
霜が降りたりんご畑で
4月24日、25日と二日続けて気温が氷点下まで下がった遠野。貴之さんは、夜中の3時に畑にでると霜害対策のために畑に火を灯し続けた。
2021年も霜の被害に悩まされた。しかし、2023年はそれ以上の被害が予想されるという。なんとか受粉できてなった実にも、影響が残るかもしれないという。
それでも、貴之さん家族はりんごの樹一本一本と真摯に向き合い作業を続ける。
「この木はまだ被害が少ないね」
「この木はたくさん花が落ちちゃったね。来年は沢山実がなるといいな」
例年より出荷量が少なくなったとしても、全国に松陽園のりんごを待っている人たちがいるからである。
来年のためにも必要な「摘果」作業
5月の中旬から6月の上旬にかけて、りんご農家は「摘果」にあたる。受粉したりんごの花を選定し、不要なものを摘み取る作業だ。
りんごはひとつの花芽に対し5つの花が咲く。全て受粉したとしても、このうち4つを摘果しひとつだけ残す。これにより、ひとつのりんごに対する葉の枚数が増え栄養がいきわたり品質のよい美味しいりんごになる。
作業を体験していて驚いたのは、新梢<しんしょう>と呼ばれる昨年生えたばかりの枝についた実は全て落とすということ。「せっかく実っているのにもったいない」と思うが、新梢に成った実は良い実にはならないという。
摘果をしていると「こんなに沢山実を摘んでしまったらほとんど残らないんじゃないか」と心配になる。しかし、この作業こそが甘く美味しいりんごを育てるためには不可欠な作業なのだ。
選別し残ったりんごを大切に育てていく作業が収穫まで続く。
お客様とのつながりが励みに
毎年、松陽園のりんごを心待ちにしている人が大勢いる。いつも電話で注文をしてくれる人が、ふらっと遠野を訪れてくれることもあるという。そうしたお客さんとの触れ合いが作業の励みになる。
秋の収穫までの様子を定期的にお届けする。どうか、美味しいりんごがたくさん実るように。作業を手伝いながら、祈るばかりだ。
ふるさと納税で松陽園を応援できます
遠野市のふるさと納税には、松陽園の商品を返礼品として取り扱っています。りんごジュースやジャムなど加工品を注文することで、松陽園さんを応援することができます!
<おすすめの遠野マガジンはこちら>
編集後記
実際に摘果をお手伝いしたのですが、本当にたくさん実を落とすんです。心配になるくらい。でも、そうやって選ばれたりんごが栄養を蓄えて、甘くて美味しいりんごになるんです。ひとつひとつのりんごがこんなに丁寧に育てられていたとは。食べる僕らも、りんごに向かい合って美味しくいただきましょう。